危うい会社の特徴

 普段は割と人のおすすめの本を読んでいることが多いのですが、珍しく本屋に行って珍しく手に取ったのがこちらの本「あの会社はこうして潰れた」(藤森徹著)です。

 

 内容は実在する(していた)会社が倒産に至るまでの経緯をまとめた本で、これといった主張があるわけではないので、人によっては読み終えた後の読了感のようなものは得づらいかもしれません。特に経営者や頻繁に取引先の企業とやり取りをするような方以外は、ここから得られる教訓は少ないと感じるかもしれません。

 自分も仕事的には今のところ取引先とやり取りをするようなことはほぼないのですが、危うい会社を知るということは、自分の身を守るために必要なことだと思っています。特にサラリーマンにとって自社が順調なのかどうかは死活問題です。この本はそれに対する解決策を提示するわけではないですが、危険を察知するための材料にはなり得ると思います。

 以下は、自分なりに感じた危うい会社の特徴です。

 そもそも経営者が自社に愛着がない場合は論外として、基本的に時流の波(バブルの崩壊やリーマンショックなど)に逆らえなかったということを除けば、下記のような特徴が言えると思います。

経営者が会社の強み(社員の能力)を理解していない

 経営者にとって自社のサービスは最大の関心事であり、それをアピールして伸ばすことこそが経営者の役割であるはずです。それなのに、既存のサービスをおざなりにして見込みのない新規事業にばかり投資をしたり、サービスの強みとは違う部分の強化(早い話が利益に走ること)にシフトしてしまい、顧客からの理解を得られずサービス規模が縮小していったり、サービスを売却してしまい、結果的に首が回らなくなる、ということが多いように思います。

経営者が周囲の話を聞かない

 当然、そうした経営者の動きに対して、苦言を呈する人たちも社内にはいたはずです。しかし、残念ながら経営者はそうした声に耳を傾けることなく誤った判断をしてしまう。これは特に中~大規模の会社で代がわりした経営者に多く見られるパターンです。小さい企業の場合は基本的に起業した方がそのまま経営者を勤め上げることが多かったり、小規模であるがゆえに目の行き届いた経営をすることができます(もちろん資金が得づらいので安定した経営が可能とまでは言えないと思いますが)。しかし中~大規模の場合は、一人で見るには範囲が広すぎ、また、経営者が頻繁に入れ替わることが多いため、会社の強みを分析する時間も少なく、社内で得た経験ではない見識を基に判断を行ってしまい、これが誤った判断の元になります。

 自社サービスの利益を伸ばそうとすること自体は悪いことではありません。しかし、その足元にあるものや、顧客がなぜそのサービスを支持してくれているのか、といった本質的な点に目を向けることなく、数字やうわべだけで判断してしまうことで、顧客は離れていきます。自社サービスの本質的な部分についてよく知っているのは言うまでもなくこれまで社内でそのサービスを支えてきた人たちであり、その人たちの声を聞くことの重要さをもっと経営者は認識すべきだと思います。

経営者の慢心

 その根底にあるのは、慢心です。自分は誰よりも会社のことをよく分かっている、という慢心です。しかし、実際は現場のことは現場の人間が一番よく分かっています。これは経営者の能力に関わることではなく、当たり前のことです。経営者がそれを認めたくないあまりに意固地になってしまうことはよくあります。

 そもそも経営者は現場の細かい部分まで分かっていなくていいのです。重要なのは情報を集めて決断することなのだから。

目先の利益とコストにとらわれる

 経営にとって最も重要なことは安定した収入を得ることです。博打のような経営は長続きしません。もちろん利益を伸ばすことも重要です。しかしそれよりも重要なことは些細な逆風では揺らがなくて済むような経営の基盤を作っておくことです。その為には、目先の利益に飛びついたり、品質を保てないコストカットをするべきではありません。目先の利益に飛びついて、既存のサービスをおざなりにしてしまえばいずれ顧客は離れていきます。一度離れた顧客を取り返すことはとても難しい。そして必要以上のコストカットは必ず品質の低下を招きます。もちろん効率化や合理化は重要です。しかしここもやり方を間違えると歪なコストカットに陥ってしまい、質か量どちらかで必ず生産性の低下を招きます(ここについてはまたいずれ詳しく書きたいと思います)。

 結局のところ、原点に戻って、自社のサービスの強み、社員のスキルなどを含めて検討することが大事です。チャレンジをしてはいけないということではありません。自社の本質的な価値を見失ってはいけない、ということです。


 取引先の会社のこういった状況はなかなか見えづらいものですが、自社の状況であれば一社員であってもある程度キャッチすることができます。そしてもし自分の会社が危うい会社だと思ったら、経営者が変わらない限り、何らかの策を講じなければ会社はそう遠くない将来立ちいかなくなることでしょう。その時、立て直すことに尽力するか、新しい場所でやり直すかはそれぞれが考えることですが、できればそうならないうちに、あの時こうしていればよかった、と思わなくて済むようにしたいものです。自分も含めて。