打ち水ってホントに効果あるの?

 

 2020年に行われる東京オリンピックの暑さ対策として打ち水の協力を呼びかける、というニュースが少し前に話題になりました。個人的にはオリンピックの暑さ対策としての打ち水には懐疑的です。

 

 誤解のないように言うと、打ち水そのものについて効果を全否定しているわけではないです。正しいやり方でやれば確かに路面の温度も下がるし、体感温度もかなり変わってきます。正しいやり方というのはつまり、日陰で朝晩の比較的気温の落ち着いた時間に打ち水をする、ということです。要は一気に水分を蒸発させるのではなく、気化熱でじわじわと気温が上がりにくくなるようにするのが打ち水の本来の目的だと自分は理解しています。

 なので、打ち水によって気温や体感温度が下がれば、少なくとも見物客にとっては熱中症になりにくくなるかもしれないですし、オリンピックを観戦するのに過ごしやすくなる環境を作れるとは言えるかもしれません。

考えられる問題点

 行動範囲の問題

 しかし問題は出場するアスリートの方です。自分も運動をするのでそれを含めた感想ですが、一部の箇所の打ち水では体感温度はほとんど変わらないです。特に広い範囲で動かなければならない陸上系の競技は打ち水の恩恵はあまり受けられません。一瞬涼しいところを通った、くらいの印象にしかならないと思います。

 

熱量の問題

 そもそも熱中症は体の内部の熱が外に逃げ出しにくい状態になり、簡単に言うと体が茹った状態に陥ることが原因です。お湯を沸かしたやかんに外から水をかけてもなかなか冷えないように、外気だけで体の温度を下げることは困難です。なので熱中症になりそうな場合は、体の温度そのものを下げなければなりません。熱中症になりかけた状態では、ちょっと涼しいところに避難したくらいでは収まらないです。

 そこに加えて、出場する選手は例外なく体を動かしています。体を動かすとあっという間に体温があがります。7月や8月の時期ともなると、朝の早い時間だろうが、夕方に日が陰ってからであろうが、自分のような素人ですら少し体を動かせば簡単に体温は上がっていきます。ましてやアスリートの方々は筋肉量も多く、常人の比じゃないほどの熱量になっているはずです。一般の人の観客はじっとしていればいいので体温の上昇は主に気温や日光などの外部要因をケアすることである程度防げますが、常に動き回っているアスリートはむしろ内部の熱量のほうがすさまじく、外気温が2,3度下がったところでそれほど効果があるとは思えません。

水蒸気量の問題

 熱中症になりやすい方の中には、普段あまり運動をせず汗腺が発達していないため、体質的に汗をかきにくく、そのせいで体温があまり下がらない方もいます。もちろん、アスリートの方は普段から体を動かしているからこそ汗をかきやすいはずです。しかし、汗は蒸発するときに体温を下げるわけなので、汗が蒸発しやすい環境でなければなりません。

 中学校の理科の授業で習ったので覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、水蒸気量が同じでも気温が下がると飽和水蒸気量(空気中に含むことができる水分の量)が減るため、相対的に湿度が上がり水分が蒸発しにくくなります。そうすると当然、水分の蒸発による体温を下げる役割が働きにくくなります。

 仮に打ち水に気温を下げる効果があったとしても、その分飽和水蒸気量は減るはずですし、そもそも打ち水が蒸発するため空気中の水蒸気量が増えることになります。もし日向で打ち水を行えば例年に見ない暑さのせいで想定以上の水分が蒸発することが予想され、さらに湿度が上がってしまうことになりかねません。そうなれば当然汗の効果も出にくくなります。

亡くなる人が出てからでは遅い

 現状の対策は後手後手であるのと同時に、当事者目線が不足している感は否めません。暑い時期の運動はかなりの危険を伴い、超人アスリートなら克服できると単純に割り切れる問題ではないと思います。

 自分自身も定期的に朝晩にランニングをしていますが、比較的日の当たらないところを走っていても、走り終わった後15分ほどは汗が引きません。要は運動はそれだけ熱を持っているということです。

 熱中症が起きたときの救護体制を整えるといった事後対応の対策だけでなく、熱中症が起きにくいよう気温の高くない時間を選ぶのはもちろん、選手の体が熱を持ち続けないよう休憩中などに体を冷やすための設備など、様々な対策が必要になると思います。

 

 もっとも、ここまで書いてきたのは自分の経験則による話なので科学的な根拠に裏付けされているわけではありません。

 どうかもしそういったことを研究されている方が入れば、打ち水がアスリートにとって効果があるかどうか、できれば競技ごとに研究してほしいと思います。